i-153 「お彼岸」
昭和20年代半ば、粗末な仏壇なのに、とても丁寧に読経をしてもらっていた。子供にはその時間が長くて「しびれたー」
と言っては、母や姉に叱られた。絵の中で生きているのは私と隣のテルコ姉だけだ。そこに兄と父の姿はない。父は山っ気が多く、
いつも一発逆転の新事業を起こそうと駆け回っていて、その都度借金を重ねていた。祖母に溺愛されていた兄二人は祖母と
暮らしていた。祖母は兄たちに死に水を取ってもらえると期待していたが、結局、私が東京に引き取り、母と二人で在宅で看取った。

この頃、母は大変に苦労していた。しかし、私たちが元気で明るかったのでとても楽しかったと、後年よく話していた。仏壇横に見える
風景はすっかり変わった。グーグルのストリートビューで見ると、畑や田んぼは住宅地に変わっている。左手奥の山は城山と呼ばれ、
山頂に茶畑があり、遺跡のように石碑や石仏がたくさん並んでいた。